昔ながらの鍛冶屋 ”佐助” で過ごす、色んなひととき。
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佐助へようこそ!
佐助店舗

はじめまして
大阪の堺のにある鋏(はさみ)の鍛冶屋 『佐助』と申します。

火縄銃の製造から、時代の流れとともに鋏(はさみ)づくりへと移り変わりまして、
植木鋏や花鋏、刈込鋏などの植物用の鋏を主に
文鎮やお香たて、燭台、包丁などの制作もいたしております。

「最高のものをつくったるんや〜!」と、せっせとものづくりに
励んでいるのは、五代目当主の職人 平川康弘です。
(以後 佐助さんとよばせて頂きますね*)
私は補佐役として、色々なお手伝いをさせてもらっています。

早いもので、この場所にきてから1年と少しがもう経ちました!
毎日のように通っているのですが、仕事場に一歩入ると
周りと少し違う時間の流れ方をしているような
不思議な気持ちになります。

そんな『佐助』で過ごす時間の中で、
日々感じるさやかな気持ちや、
小さなこと、大きなこと、いろいろなハプニング(?)や出会い。
展示やイベントのお知らせなど、ここで書き綴っていきたいと思いますので
どうぞよろしくお願いいたします。

つたない文章ではありますが、最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。
皆様にとって心地よい時間がいつも流れますように。


【佐助との出会い】

佐助さんとの出会いは2008年の5月。
西武ドームで行われた『第9回国際バラとガーデニングショウ』を訪れたときのことでした。

駅で見かけてずっと気になっていた綺麗なバラのポスター。
お花が大好きな私は、電車に乗るたびに綺麗だなあと、つり広告を見上げていました。
このイベントを初めて知ってからも、用事でなかなかいけませんでしたが
4年ごしでやっと訪れることができました。

期待に胸を躍らせながら、おおきなおおきなスタジアムの中へ入ると、
溢れんばかりの人達が、花を眺めたり、ガーデニンググッズを購入したり、
思い思いに楽しんでいます。

あまりの人の多さに圧倒されて、少しぼうっとしながらも、
色とりどりのお花を見てふらふらと一人歩いていると、
ふと思いがけない光景が目にとびこんできました。

今までみていた「花」の鮮やかな色とはがらりと違う、
そこだけ黒と白のモノクロだけでつくられたディスプレイのブースです。

奥の方には黒い作務衣(さむえ:日本で古くから使われている作業着)
をきた人が、トントントンと、実演をしていました。

私は、「職人さん?!こんなところにどうして?!」と、
よくわからないながらも、驚きのあまり目が釘付けに。
一体何が置いてあるのだろうと、吸い寄せられるように近くの方までいきました。

手前のガラスケースの中には、今までに見たことがないような雰囲気をかもし
出す品々が並んでいます。

花を切る鋏や、庭師さん用の鋏、様々な鍛錬の品、火作り風景の映像など、
長い時間じーっと見ていたような気がします。

その時に、「どうぞ、よかったら切ってみてください。」といって、
試し用の鋏(はさみ)と紙をすっと差し出してくれたのが、
さきほど実演をしていた黒い作務衣の佐助さんです。
「わあ、いいのですか?」と受け取って白い紙を切ってみると、またまたびっくり!

持った時に、手の平で感じるしっかりとした重みとは対照的に
「あれ?いま切ったのかな」と思うくらいの軽い感じだったので、
紙を確かめてみると、きちんと切れていました。まるで空気をきったような感覚です。
一体どうしたらこんな鋏ができるんだろう!
「すごい!!!」

聞けば、国でも唯一の鋏職人さんだそうで、今はたったひとりでお仕事をなさっているという・・・
世の中には色んな方がいらっしゃるものだなあと、すっかり驚いてしまいました。
花を見に来たところが、なぜか鋏職人さんの作品に感動してしまったという一日。

これが佐助さんとの始めての出会いでした。


それから数日後・・・
学校で制作していると、思いがけず一本の電話がかかってきました。
出てみると、なんと先日お会いした伝統工芸士の平川さん(佐助さん)!
お話は「ちょうどバラ展の1ヵ月後、また東京で展示をする予定があるので、
よかったらお手伝いでバイトをしてくれないか」とのことでした。

「私でよければぜひ!」とお答えし、今度は東京ドームでお手伝いさせて頂きました。
そのときに、いろんなお話をさせてもらったのですが、その中でなにげなく、
「手伝いに来てくれんかね〜」と声をかけてくださいました。
佐助としても、ちょうど本格的に動き出そうと考えているところだったそうです。


思いがけないありがたいお誘いにびっくり!
昔からものをつくるのが大好きで、美術の学校に通っているところでしたし、
江戸時代だとか、古いもの、心のこもったものにとっても魅力を感じていました
ので、もちろん興味心身です。
けれども、「お仕事をする」となると、
他の会社の就職活動が進行中であったこともあり、他にいろいろな考えが浮かんできまして、
「伝統的な工芸職人の世界だなんて、自分にとってはおそれ多いにきまってる〜!?」と、
あまり現実的には考えていませんでした。「行ってみたい!」という根っこの方にある気持ちを見つけるまでに、いろんな考えが覆いかぶさっていたのですね〜。


次にお会いしたのが夏休みでした。
大阪の仕事場へ遊びにきていいよ〜と言ってくださったので、
鍛冶場やみせの様子を見たり、たわいのない話やまじめなお話、いろんなお話をしました。
これまでのこと、今の状況、これからの夢を熱く語る佐助さんの姿を見るうちに、
「ひとりでこれだけ頑張っていらっしゃる佐助さん。もしかしたら何か私にできることがあるのかも!?
と感じるようになりました。

そして、秋。フランスの職人団が東京にくるため、道具学会に入っていた佐助さんが
再び東京へいらして、お会いしました。



私が大学でものづくりに専念するようになってから痛感していたことは、
「つくるのが大好きで、毎日のようになにかを作って生きているけれど、
自分がしていることは本当に意味があるのかな」ということでした。

今のくらしは、物がすぐに手に入って便利になった反面、まだ使えられる
ようなものも「ごみ」として捨てられていることが多い。
すごくもったいないことをしているのをわかっていながら、、
自分も当たり前のようにそうして生きているのが、もどかしくて、苦しかった。
これ以上、沢山物を作ってどうするんだろう?

どうしたらいいのかなと考えた挙句に、出てきた自分の答えは
「いいものを作っていく。生んでいく。大切にしていく。」ということでした。
(やっぱり大好きなものづくりはやめられなかったようです。笑)
「もっともっとすべてがうまくいく方法があるはず。」そう思いました。

江戸時代の人たちは、おにぎりを笹でつつんでいたので、
山でご飯を味わった後に残る笹も、ちゃんと植物の肥やしに
なっていったそうです。
今だったらビニールで「ごみ」として捨ててしまう包み紙も、
植物の「ごはん」になるんですよね。自然ってすごい!

この例えは、すごくすごく小さなことかもしれないし、
きっと誰もが当たり前に知っていることで、きっとそんな風に、
すべてのものが(人間ひとりひとりも含めて)姿を変えながら
循環して役立っていけるのだと思います。

そして、そういう仕組みの積み重ねとか、自分やみんなのささやかな気持ちが
つながりあって、今目の前に現れている世界をつくっている。
物を生む人(自分)が変わっていくことで、流れをよくして、
みんなが気持ちいい方法をさぐっていけるんだなあ。


こんなことを、ずーっと考えていたこともあり、
時間が経つうちに、昔ながらの方法を大切にしている佐助の仕事と、
自分のしたかったことが重なり合って、急に結びついて見えてきました。


この出会いにめぐり合えたのは、もしかしたらすごく運のいいことかも知れない。

自分がこれからやってみたいことや、今までしてきたことを活かして楽しみながら
喜んでもらうことが人にも喜んでもらうことができるかもしれない。

「厳密さが求められる」という自分と対照的な分野(刃物や道具)に携わることで、
新鮮なものを学べるかもしれない。

そんなことが心に芽生え始めてきたのです。

今となってはいろんな理由があったことがわかってきましたが、
単純に、この道具をいろんな人に感じてほしい。
職人という立場ではないとしても、こんなものがあるんだということを色んな人に知ってもらう
きっかけに自分がなれたらいいなと思いました。

そして、そのときは整理できていないこけれど感じているの気持ちをそのまま書いた手紙を
おくりました。

その中のひとつに、
「お弟子さんにはなれませんが、本当によろしいでしょうか。もしそれでもよければ、
自分に出来ることをいかして、ぜひお手伝いさせてほしいです。」というような内容を
かいたのを覚えています。

「職人の世界」というと、「この道ひとすじ!」「覚悟と忍耐!」そんなイメージを勝手に
抱いていた私は、その点がすごく気になっていました。
自分はとても気が多くて、わがまま。
やりたいことがたくさんあるので、
もし、そのような覚悟のあるお弟子さんを求めているの
だったら、圧倒的にむずかしいと感じていました。

一般企業だったらすぐに、「不採用!」といわれてしまうような申し出に、
「いやいや、青池さんも結婚するやろし、あんまり堅く考えなくても大丈夫やから。」
こんなふうに返してくれました。

そういうわけで、今、自分も黒い作務衣をきてここで過ごさせてもらっています。
何があるかわからないものですね*

まだまだ佐助での活動ははじまったばかりですが、
「柔軟」で「志が高く」「ありのまま」、それでいて「こだわりの塊」のような一風変わった
佐助さん。これからの行く末、出会いがとっても楽しみです。

昔から伝えていただいた大切なものを少しでも多くの人と分かち合い、
皆さまがいつまでも心地よい気持ちでいられるよう願っています。

長い文章最後までお付き合い頂きありがとうございました。
心より感謝申し上げます。


補佐 青池より